『降霊 KOUREI』~関西テレビが制作したテレビ用心霊サスペンス

1999年 97分 日本/監督:黒沢清/出演:風吹ジュン 役所広司/引用画像:チラシ(蒐集品)

□霊能力を持つ純子(風吹ジュン)と効果音技師の克彦(役所広司)は、互いを思いやりながら暮らしている仲のいい夫婦だ。純子はときおり降霊術を用いて人生相談を行なったり、大学で心霊学を研究する早坂(草彅剛)と少し関わったりしていたが、活動は消極的で無名の存在だった。ある日、身代金目的の小学生誘拐事件が発生し、純子は警察から捜査の協力を依頼されることとなる。その場では結果を出せずに終わったものの、自宅へ戻った彼女はさらわれた少女の存在をすぐ近くに強く感じておののく。なんという偶然か、樹海で誘拐犯から逃げ出した少女が、仕事で同じ場所に居合わせた克彦の機材ケースにもぐり込んだため、箱詰めのまま家に連れて来てしまっていたのだ。幸い少女は無事であったが、その姿を見た純子に、ふと、よからぬ考えが浮かんでしまう。この事件をうまく利用すれば、自分の名を世間に知らしめることができるのではないかと……。

■デヴィッド・クローネンバーグという監督がいますでしょ? 『ザ・フライ』の後くらいから変わっていきましたけど、それまでの作品では、特殊能力者の破滅を多く描いておりましてね。初期のクロネン作品群が発していたことは、「特別な力を手にしたところで、人間は幸せになんかなれない。むしろ社会に適応できなくなって、はみ出すだけ」というものだったんですが、この『降霊』もまさにそれと同じテーマを持っていて、悲観的でいいんですよ。本作には佐藤純子という霊能者がいて、『デッドゾーン』の主人公みたいにすごい力を持っていてもやはり幸せではなく、家に引っ込んで暮らしているわけです。本人としては外に出て働きたいのに、見たくないものが勝手に見えてとても恐ろしいので、パートに出ても三日ともたない。出ると精神的にまいってしまう。彼女は自分のパワーが手に負えなくて、それが理由で社会から外れてしまった人間で、自宅にこもって自己実現の夢を見つつ、いつか素敵なことが起こればいいなあ、なんて、何かをぼんやりと待ちながらの日々をただやり過ごしているんです。

*次の段落のみ、結末にふれております

■こういった思いを積み重ねるだけの人生ってつらいですよね。たいていの人間は社会に出るなりして普通の生活を送りたい、周囲から認められたいと願うじゃないですか。でも、純子の体質ではそれが叶わず、何度か挫折もしているようなんです。で、そんな折に、誘拐されて行方不明になっているはずの少女が、とつぜん手に入ってしまう……。そこで功名心がもたげて事件解決の立役者を演じようと画策し、少女を監禁、そして人の道を踏み外すという、ね。まあ、ずいぶんと強引で極端な展開といえばそれはそうなんですが、でも、誘拐された少女が荷物にまぎれ込んだ偶然も後の悲劇もすべてひっくるめて霊による障りだと思えば、わりとすんなり通りませんか。純子は霊と交信はできても浄める力は持ち合わせていないし、しかもエピソードの中に出てくる霊がどれもとても不幸な感じだし、あの夫婦はそういう不吉なものとずっと接し続けてきたせいで祟られ、破滅へと進むように仕向けられていたんじゃないかな。と、自分はそんなふうに思えて、納得できたわけでして。物語は当然のごとく絶望の幕切れとなって、そこに流れだすハワード・ショアみたいな音楽がまた、よく似合っていてグッドです。あ、これはやっぱりクロネンだ。って、思います。黒沢監督は本当に本歌取りがうまいなあ、という鑑賞感です。

■出演者の中でいちばん魅力的だったのは純子を演じる風吹さんなんですけど、この方の可愛らしさによってドラマがしんどくなり過ぎず、怖さもサスペンスもいい塩梅ですよ。中盤の展開からは作品の精神がグロテスクになるんで、風吹さんの個性にある自然な丸みがショックを幾分和らげてくれております。同じ意味で役所さんが持っている陽の個性も助かるというか、克彦が少女を黙らせようとする場面においても、まだなんとかぎりぎり見ていられるんですよね。とはいってもやはり背筋はどうしても冷たくなりますが、それでも行き過ぎた嫌悪感とまではならないこのさじ加減が、まさに絶妙な配役でございました。

■ちなみに『降霊』は海外の小説を原作としているとのことで、同じ原作から、64年にイギリスで映画化されたものが先にあります。タイトルは『雨の午後の降霊祭』といい、製作と主演はリチャード・アッテンボローです。映画の入り口ではオカルトものと見せかけて、じつは狂人のサスペンスという、ちょっとひねった秀作でした。アッテンボローの妻役の女性主人公は自分に霊能力があることを何がなんでも世間に認めさせようとして学童誘拐まで企てるんですが、その裏にはある悲しい心理があった……という物語。こちらは母としての心の傷みを扱っており、展開も合点がいくので、『降霊』に比べるとノーマルな印象。頭のおかしな妻を憐れんで、ほんとは誘拐なんてしたくないのに計画を実行に移していくアッテンボローが魅せるんですよね。

 

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