『時計じかけのオレンジ』~赤・青・赤=興奮・鎮静・興奮

原題:A CLOCKWORK ORANGE

1971年 137分 イギリス/監督:スタンリー・キューブリック/音楽:ウォルター・カーロス/出演:マルコム・マクダウェル/引用画像:ポストカード(蒐集品)

□近未来のロンドン。アレックス(マルコム・マクダウェル)率いる不良グループはドラッグ入りのミルクに酔いながら街をうろつき、毎夜のごとく非道の限りを尽くしていた。そんなある日、強盗に入ったアレックスは仲間の裏切りにあって逮捕され、14年の刑期を言い渡される。牧師に取り入っておとなしく刑務所暮らしを務めるアレックスだったが、新しくできた犯罪矯正治療の被験者となれば釈放されるという噂を聞いて、迷わず志願する。

■本作は音楽の作用によって面白い場面をたくさん作りだしている映画で、ぼくはオープニングの部分が一番好きなんです。まず、冒頭で真っ赤な画面が現れるとその背景に<メアリー女王のための葬送曲>というクラシックのシンセサイザーによるアレンジが流れ始めるんですが、これが地の底からの唸りのような音で、得体の知れない夢の中の響きみたいに聞こえるんですね。そして、その不気味な音の中で赤の画面がパッと鮮やかな青に切り替わったと思ったら、またすぐに赤へと戻る。それで次の画面に切り替わると、こんどは主人公・アレックスの、陶酔した表情のクローズアップです。このオープニングの一連の描写って、ヤクに酔っているアレックスの感覚そのものを表現した画と音だと思うんですよ。つまり、頭の中では彼のお気に入りである<メアリー女王の葬送曲>がバイオレンスのファンファーレとして鳴っていて、その音に色が見えているんです。赤は興奮のアッパーで、青は鎮静のダウナーということでしょうか。ミルクに溶けた麻薬が脳に心地よく巡って、心の眼が開いた状態にいるんですね。そうやってアレックスは夜のプランを思案中ってわけ、ということなんです。気の荒いロックではなく、クラシックに刺激されて暴力の夢を見るというキャラクターがちょっと知的で、ピカレスクものとしての魅力を強めています。

■アレックス一味が悪事を働くときのテーマ音楽になっている<泥棒かささぎ>も、場面にマッチしていて好いですね。くるくると舞うようなユーモラスな曲調で、とても優雅です。これは狭い田舎道を盗んだスポーツ・カーでぶっ飛ばして対向車をひっくり返したり、乱闘する場面で流れていますが、感情が乱れず品のある曲なので、困ったことに彼らの凶行がしだいに素敵なものに見えてきてしまいます。ちょうど物語のテーマと同じように、こちらの頭の中も音楽効果によって調整されてしまうんですね。で、それとあとなんといっても、やはり深く印象に残るのは<雨に唄えば>ですよ。あのおぞましき蹂躙のシチュエーションに誰もが幸福しか連想しないハッピーソングを使って反社会的名場面に仕上げてしまったのが、まあ、すごいというか、ひどいというか。

■本作は、アレックスがたとえ唾棄すべき人間であってもそういうこととは関係なしに、彼が泣けば憐れみの悲しい音楽をつけるし、楽しげに暴力を振るえば、そこには多幸感あふれる音楽がつけられます。その理由は、これが一人称で語られる物語で、演出の意図として映画が主人公の感情からはみ出さないようにしてあるからなんですね。で、その演出が選曲も含めて非常に巧みなものだからまんまとはめられて、本来なら目をそむけたくなるような残酷性に、いつの間にやら鑑賞者もお楽しみの気分を見出してしまうことになるんです。個人的には、作家夫妻の場面には何度みても慣れることのない強烈な不快感があるんですが、それでもその場に面白おかしい気分が満ちていることは充分に理解できてしまいます。

■映画の中では説明がありませんが、じつはアレックスの年齢ってまだ15歳でしてね。これを当時二十代半ばのマクダウェルが、ガキっぽい台詞まわしと仕草を交えながら、わざとらしく演じているわけなんです。で、そのわざとらしさがいい具合におふざけとしての面白みを発揮して、見事なキャラ作りとなっておりましたね。ちなみにマクダウェルは『タイム・アフター・タイム』では作家のH.G.ウェルズを演じていて、これが意外なことに可愛げのある好人物に仕上がっていたりするので必見ですよ。コカインの影響もあったのか、中年以降は精彩を欠いてしまって役に恵まれなくなりましたが、本作のように若い時代の映画を観ると個性のある男前で、とても魅力的な役者さんです。

 

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