『彗星に乗って』~画だけでなく、ちゃんとメッセージ性もあるファンタジー映画

原題:NA COMETE

1970年 74分 チェコ/監督,美術:カレル・ゼマン/原案:ジュール・ヴェルヌ/引用画像:チラシ(蒐集品) 本編映像

□1888年、フランスの支配下にあった時代のアルジェリア。セルバダックというフランス軍の若い中尉さんが市場で手に取った一枚の絵はがきには、とても魅力的な女性が描かれていた。恋心を抱いたセルバダックはついぼんやりしてしまい、崖の上から海へドボン。ああ、もうこれで最期かと思ったそのとき、はがきと瓜二つの女性が現れて岸へと引き上げてくれた。女性はアンジェリカと名乗り、いましがた海賊船から逃げてきたばかりだという。そこで彼はアンジェリカを連れて軍の砦に向かうが、謎の彗星が怪光線を放射しながらアルジェリアに大接近。激しい嵐が吹き荒れたかと思うと、ひとも砦も市場も船も、みな全部まとめて彗星に吸い上げられてしまった。

■こちらの記事に添えた本編画像だけを見ると、映像最優先の映画と思われるかもしれませんが、そうではないんですよ。本作はお話やテーマを伝えるのが主で、トリックの方は従。ゼマンの意識はいちばんには子供の観客に向いているようで、ちゃんとしたメッセージがありましてね。彗星に引っ張り込まれて地球から遠く離れた後でもなお、人間たちが領土をめぐる争いに明け暮れている愚かしさを、ユーモアにくるみつつもはっきりと非難しているわけなんです。とくに侵略者であったフランスにたいしては辛らつな感じですよ。これ、見た目はやわらかいんですが、大人にとっては皮肉の笑いになり、子供には平和こそが幸せに生きるうえで最も大切なものだとさりげなく悟らせる、知的な良作です。ラストにしても、単純ながらも深みがあって、けなしようがありません。

■で、映像世界の方をメインに評価するとなると、それはそれで、とてもとても魅力的です。実写の映画ではあるんですが、イラスト、書き割り、アニメーションなどなど、至るところでユニークな合成技法を見せてくれて、まるで動く絵本といった趣。全編を通して画面が単色に近い感じに染められているので合成物との違和感が軽減され、シュールな部分が目立ち過ぎないのも好し。彗星の場面では恐竜たちが出現して、肉食のも草食のも、ケンカせずに一緒に行進していたりするのが微笑ましいんですよね。彼らはモデル・アニメーションで動くんですが、ハリーハウゼンのようなエモーションなんかは全然なくて、つたないんです。また、手を入れて動かすパペットの方も植物の葉っぱをこそいで食べていたりして無邪気な演出。だから恐竜というよりは「恐竜さん」と呼びたくなる雰囲気で、とにかく可愛い。主人公の中尉さんは男前だし、ヒロインの女優さんもすごく綺麗。始まりから終わりまで愉しい映像がずっと続くんです。

現代の映画にはない誠実さ ★★★★★

独創的な画作り      ★★★★★

 

 

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