『クリーピー 偽りの隣人』~キャッチできる人だけに向けて作られたような、カンカク重視の映画

2016年 130分 日本/監督:黒沢清/出演:西島秀俊 香川照之/引用画像:チラシ(蒐集品)

□自分のミスで被害者を出してしまった高倉(西島秀俊)は警察を辞めて、いまは大学で犯罪心理学を教えている。引っ越してきたばかりの家の隣には西野(香川照之)という変わり者が住んでおり、高倉と妻は彼のことをよく思わなかった。そんなある日、西野のひとり娘が高倉に突拍子もないことを訴える。西野は父親ではなく、まったくの他人だという。

■この作品、メジャー系娯楽映画じゃありません。黒沢監督の作風を全然知らない人が観たら文句をいうと思います。惹句にかけて説明すればそんな感じです。本作は、シュールが強い方の黒沢カラー。よく出来た秀作なんですが、監督の周波数と合っていなければ、おそらくキャッチできません。

■本作、まずは西野というキャラクターの作り込みが良いんです。西野は表面的には間抜けな、実際に町内会や職場で見かけるタイプの変人で、カリスマ性を持ったサイコではありません。それを香川さんがクセのあるユーモアで演じていて、まさに絶妙なんですよね。前半はこのイメージで週刊誌ふうの下世話さというか、人格崩れのダイレクトな面白みを感じさせます。人々が憎たらしい人物にたいして抱いてしまう好奇心で引っぱるんです。でも中盤になると、ここにまた別のテイストがプラスされます。そして、さらにこの映画の魅力に、ぐいっと引き込まれてしまうことになるわけでして。※下の段落に続きますが、そこからは大きくネタバレしていきます。

■西野が住んでいる家は普通の一戸建てです。外や玄関からのぞくだけならば、よくある地味な日本の一戸建て。なんですが、中盤にくると、その内部が姿を現わすんです。で、これが、すんごく異様な造りになっておりまして、家の外観からは絶対に想像のつかない巨大な無響室が短い廊下の奥にいきなりあるんです。つまり、家が西野という人物のメタファーになっているわけですね。外見(そとみ)は平凡でも中身は狂っている、家の構造が家主そのものを表しているという状態。そこはなんだか、トビー・フーパーの初期作品を思わせる感覚ですね。それで、この場面と同時に、西野がSFみたいに奇妙な形の注入器具と薬剤を使って他人の一家を乗っ取ってきたことが明らかになるんです。具体的な説明は何ひとつないし、一瞬あっけに取られてしまいますが、でもそんな大嘘がここでフィクションとしての快感を呼ぶんですよね。西野と彼のとっておきの秘密部屋(アジト)をくっつけることで、この事件はもうとにかくワケのわからん謎の怪人による仕業なのだというふうに、ねじ伏せられてもしまうんです。ここ、見事な仕掛けだと思います。あの無響空間のビジュアルが現れた瞬間、本作は邦画の域から飛び去ってしまいました。ハッタリの上手さ、画の愉しさ。新しい映画を観ていて、センス・オブ・ワンダーという言葉が浮かんだのは久しぶりのことです。この場面の驚きには、ベラスコの部屋とか『KAFKA 迷宮の悪夢』を思い出しましたよ。あの無響室がいきなり出てくるのは納得いかん、との意見もありますが、でも原作の最後では、あの少女はピアニストになる設定なんですよね。そこから発想を得たということなんでしょう。

■香川さんがどうしても目立つ役柄なので、西島さんはちょっとソンをしている印象でした。でも西島さんが持っている独特の不思議感は、やっぱり本作においても光っておりますよ。犯罪研究に夢中な高倉のこどもみたいな態度が、なんとなく『ツイン・ピークス』のクーパーや、『X-ファイル』のモルダーを思い出させてくれるんです。個性の中に不気味さがあって、それが見えたり隠れたりしている、魅力的な俳優さんだと思います。

■物語のほころびを放置する、説明を省く、あるいは非現実的な事柄をねじ込む。そうやって映画を少し壊すことでシュールな味を出しています。町内を行き交う人々が様式(パターン)として演出されて、『カリガリ博士』や実相寺監督ふうに白々しく浮き上がって見えているのも違和感のある画で面白い。全体の映像としては幾度となくワイドショーで見てきた怪奇事件の起こった町、記憶の中でイメージするサイコさんの住む町をそのままジオラマ化したような景色が、それっぽい雰囲気でマル。本作は景観映画として眺めていても、とてもいい出来具合だと思うんです。

役者の個性 ★★★★★

画の作り  ★★★★★

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