『ダゲレオタイプの女』~ “いとあはれ” な怪異譚

原題:LA FEMME DE LA PLAQUE ARGENTIQUE

2016年 131分 フランス,ベルギー,日本/監督:黒沢清/出演:コンスタンス・ルソー タハール・ラヒム オリヴィエ・グルメ/引用画像:チラシ(蒐集品)

□ジャンという青年が、写真家のステファンに助手として雇われる。ステファンはダゲレオタイプ(被写体を長時間固定しておく必要のある撮影方法)を使う芸術家で、モデルを務めているのはひとり娘のマリー。しかし、彼女にしてみれば身体的にかなりつらく、自分を犠牲にしながらというのが実情だ。そんなある夜、マリーが階段から転落して意識不明の重体となる。ステファンが撮影時にマリーの身体を固定しやすいよう、ひそかに弛緩剤を飲ませていたのが原因だった。彼女に恋心を抱き始めていたジャンは、病院へ運ぶためにあわてて車を走らせる……。

■黒沢清監督が外国人キャストを使って、フランスで撮影した怪異譚。クラシックに思いを寄せたようなドラマで、仕立てにも品があります。舞台となる家のイメージを強く印象づけさせるところは、ジャック・クレイトンの『回転』や、ロバート・ワイズの『たたり』にならっているのではないでしょうか。階段が怖かったり、扉がギィーッとひとりでに開いたりしますしね。そういうムードが好きなひとならば、お屋敷映画としてみることもできそうです。

■ただし、これは恐怖感情をテーマにした映画ではございません。だからたとえ怪現象が起こっても、ギョッとか、ゲッ、とはさせないんですね。描写はミステリアスの範囲にとどめられて、ずっと節度ある表現を通します。本作は愛や感傷を題材にした怪談がにじませる悲哀美、そういった文学的感性に重きを置いておりまして。その作風を地味とするか、ハイブラウとするかで、評価は大きく分かれそうです。

■これまでにも何度か黒沢作品の中で引用されてきた『回転』のイメージですが、今回は本物の外国人女性のシルエットを得て、はっきりとわかりやすく引用されておりました。本作もやはり、そうやって過去の幽霊映画の記憶をたくさん重ねながらの方が鑑賞感に厚みが出ておもしろいと思います。監督の『岸辺の旅』をすでに鑑賞済みならば、アウトテイクのような楽しみかたもできることでしょう。『岸辺の旅』では『惑星ソラリス』など、タルコフスキーの面影を感じましたが、こちらにはヒッチコックふうの、男の妄執の犠牲となる女性の悲しさを感じます。

■それにしても、ヒロインを演じたコンスタンス・ルソーの悲しげな風情。眼球振盪(しんとう)と銀板の中の焦点の合わない目。そういったものが整った顔立ちに加えられる別の魅力となって、こちらの感性にぐっと入り込んできます。特殊な器具に縛りつけられて気を失っている被虐の美しさもマル。そんなルソーのはかなさによって、鑑賞後の余韻が深くて長いんです。

コンスタンス・ルソー ★★★★

美術         ★★★★

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